こんにちは!鹿児島県共生・協働センター、ココラボです。
ココラボでは『みんなの一歩』と題して、鹿児島県内で地域活動や社会貢献に取り組む方々へのインタビューを行い、その想いや背景を紹介しています。鹿児島県内には、多種多様な方々がそれぞれのかたちで活動しており、そこに至るまでの過程もまた一人ひとり異なります。『みんなの一歩』では、いま活動している方がどんな想いでその取り組みを続けているのか、そして活動を始めるきっかけとなった“最初の一歩”は何だったのかを丁寧に伺っています。この企画が、これから何かを始めたいと思っている方にとって、小さな後押しとなれば。そんな願いを込めて続けています。展示はセンターに入ってすぐ左手の壁際に常設していますので、ふらっと立ち寄った際には、ぜひご覧ください。
今回ご紹介するのは、17人目となる 樗木 真理(おてき まり)さん。
前編では、教育系広告代理店や人事の仕事を経て、種子島へUターンするまでの歩みと、その中で感じた葛藤や変化について伺いました。
後編では、現在樗木さんが取り組んでいる「種子島たからつむぎ」のこと、そしてその活動の先に見ている、島の未来についてご紹介します。
【樗木 真理さん プロフィール】
1993年、鹿児島県種子島出身。宮崎公立大学卒業後、教育系広告代理店に入社。名古屋で3年間、企画営業として県内の大学・短大の学生募集広報やブランディング活動に従事した後、東京の人事部へ異動。新人育成や福利厚生、社内報の企画・運営を担当する。
その後転職し、関東にて県が委託する就活イベントの運営サポートに関わる傍ら、副業で女性起業家のSNSサポートを開始。2022年頃より本格的にインタビューライターとして活動を始める。オンラインで仕事ができるようになったことを機に地元へUターンし、現在は観光ガイドなども行っている。
「種子島って、宝いっぱいの島ですね」から始まった
現在、樗木さんはバスガイドや観光の仕事に携わる傍ら、「種子島たからつむぎ」という取り組みを進めています。
その中心にあるのは、人と地域がつながる旅づくりです。
「種子島って、名前はみんな知ってるんですよね。鉄砲伝来とか、ロケットとか。でも、実際に来る人はそこまで多くないし、来たとしても行く場所が限られがちで」
種子島の観光は、どうしても宇宙センターや鉄砲伝来にまつわる場所に注目が集まりやすい。もちろんそれも大きな魅力のひとつです。でも樗木さんは、そこだけでは届かない種子島の良さがあると感じてきました。
森、星空、農業、集落、人の営み。その土地ならではの空気や、そこに暮らす人たちの温度に触れてこそ見えてくる魅力がある。
「案内していたお客様から、“種子島って宝いっぱいの島ですね”って言ってもらうことが多くて。また、種子島での暮らしを楽しみながら、その魅力を届けたいと活動されている方々が島にはたくさんいらっしゃって、そこから「宝をつむぐ」という名前が浮かびました。」
“宝”とは、観光スポットだけではありません。その土地に生きる人も、暮らしも、自然も、文化も、すべてが宝。
それらを人と人とのあいだで紡いでいくような旅ができたら——そんな想いから、この名前が生まれました。
種子島の豊かな自然の中で、心と身体をひらいていく体験
スポットを巡る旅から、人や地域につながる旅へ
「種子島たからつむぎ」で樗木さんが行っているのは、個人や少人数の旅のコーディネートです。
たとえば、森林浴ガイドと組んだ森のリトリート。ワーケーションで訪れる人の滞在プランづくり。星空スポットへ案内する星空ツアーの運営。農業に関心のある人と、島の一次産業や集落をつなぐような旅の提案。
旅のかたちはさまざまですが、樗木さんのなかには、ひとつ共通する想いがあります。
「スポット巡りで終わるんじゃなくて、人とか地域にちゃんとつながる旅にしたいんです」
その旅を通して、訪れた人にはまず、心身ともに元気になってほしいと言います。
「旅って、自分に戻る時間だなと思っていて。忙しい日常から少し離れて、自分と向き合ったり、次のワクワクを見つけたりする時間になったらいいなって」
そしてもうひとつ大事にしているのが、「また来たい」と思える関係性をつくること。一度来て終わりではなく、またあの人に会いたい、あの場所に行きたいと思えること。
その関係性が、旅を“通過点”ではなく、“つながり”に変えていきます。
島の景色と人との出逢いが、旅を”通過点”ではなく”つながり”に変えていきます
外の人だけではなく、島の人にも届いてほしい
樗木さんがこの活動を通して届けたい相手は、島の外から来る人だけではありません。
むしろ、島の中にいる人たちにこそ、感じてほしいことがあると言います。
「地元の人たちにも、自分たちがワクワクするものとか、好きだったものを思い出してほしいんです」
外から来た人と出会うことで、普段の自分では気づかなかった思いが立ち上がることがある。忙しさの中で眠っていたものや、周りの目が気になって出せずにいたものが、少しずつ顔を出すことがある。
「こういう生き方もあるんだな、とか。自分も小さくでも何かやってみたいな、とか。そういうきっかけが増えたらいいなと思っています」
島では、人生の選択肢が狭く見えてしまうことがある。
結婚、出産、仕事、地域との関係。どれも大切だけれど、そのなかで“自分は本当はどうしたいんだろう”と立ち止まる余白は、決して多くないのかもしれません。
だからこそ樗木さんは、外との交流や、誰かの話を聞く場を通して、島の人の中にもある想いや可能性が少しでも動き出したら、と考えています。
「人の想い」が、未来をつくると感じるようになった
Uターン当初、樗木さんは「地元を盛り上げたい」と強く思っていたわけではないと言います。
でも、観光の仕事を通して島の事業者や地域の人たちと出会い、その想いに触れるなかで、気持ちは少しずつ変わっていきました。
「みんな、口に出してないだけで、それぞれ想いを持ってるんですよね。こうしたいとか、こうなったらいいのにとか。そういうのを聞くと、この人たちの力になれる人になりたいなって思うようになって」
島をどうこうしたい、というよりも、まずはそこに暮らす人たちが、自分の人生をもう少し楽しく、自分らしく生きられるように。そのための関係性やきっかけを、一緒につくっていきたい。
そんなふうに思うようになった背景には、地域で感じた“対話の難しさ”もありました。
世代間の価値観の違い、これまでの関係性、言葉にすることへの遠慮。人と人との距離が近いコミュニティだからこそ生まれる、繊細な側面もあるのだと思います。
「地方って、日々の暮らしの中で自然と気にかけ合う関係性がある一方で、意見を伝え合ったり、深い想いを言葉にしたりする機会は意外と少ないなって感じて。だからこそ、ちゃんと想いを言葉にできる場って大事なんだなと思いました」
その意味でも、樗木さんにとって旅やインタビューは、人が自分を見つめたり、誰かの思いに触れたりする“入口”なのかもしれません。
チームでやるからこそ、見えてくる景色がある
「種子島たからつむぎ」は、最初は個人で始めた案内やコーディネートが土台になっています。でも今は、5人ほどの仲間と、ゆるやかなチームとして動いています。
デザインを担う人、看護師をしながら関わる人、歯科技工士でありながらガイドやカメラもできる人。
それぞれ本業を持ちながら、同じように種子島に想いを持つ仲間たちです。
「一人でやっていても広がらないなと思ったのと、観光っていろんな人が関わるものなので。同じ方向を向いている人と一緒に、チームとして見せた方が巻き込みやすいなと思いました」
ただ、大切にしているのは“組織らしさ”よりも、一人ひとりの思いや無理のない関わり方です。
「自分たちが消費されないペースでやること。提供する側がちゃんと楽しんでいること。それはすごく大事にしています」
観光は、表に見える部分は楽しくても、裏側では調整も多く、決して簡単な仕事ではありません。それでも、まず自分たちが楽しめること。その空気に、人は引き寄せられていくのだと樗木さんは言います。
種子島を象徴する風景の、その先にある地域の魅力も届けたい
“オール種子島”で、島の魅力を届けていくために
樗木さんが今後の展望として話してくれたキーワードのひとつが、「オール種子島」でした。種子島には一市二町があり、それぞれに歴史や事情がある。それが島の個性でもありつつ、観光や発信を考えるときには、まとまりづらさにもつながることがあります。
「せっかく来てもらっても、行く場所や利益を受ける場所が偏ってしまうのはもったいないなと思っていて。もっと島全体で魅力を届けていける形をつくれたらいいなって」
個人で頑張っている人はいる。魅力ある事業者も、場所も、たくさんある。
でも、それらが点のままではなく、少しずつつながっていくことで、種子島全体の見え方も変わっていくはず。
「ちゃんと連携して、一緒に企画をつくって、一緒に発信していくところまでやっていきたいです。観光を軸にしながら、種子島のことを未来志向で考えていけるきっかけをつくれたら」
旅づくりは、その入口のひとつ。けれどその先には、島でどう生きるか、どんな暮らしや働き方ができるかという、もっと大きなテーマも見据えています。
まずは、自分の半径1メートルを大事にする
最後に、地域で何か始めたいけれど、まだ一歩が踏み出せない人に向けて、メッセージをお願いしました。樗木さんは、少し考えてから、こんなふうに話してくれました。
「とりあえず、やってみることですかね。何につながるかわからなくても、少しでもやってみたいことがあるならやってみる。そうすると、次の展開が見えてきたりするので」
そしてもうひとつ、大切にしていることとして挙げてくれたのが、「まず自分が幸せであること」でした。
周りのすごい人を見て落ち込んだり、比較してしまったりすることもある。でも、一人ひとり、違う形の“できること”や“すごさ”を持っている。だからこそ、人を見すぎず、ちゃんと自分にベクトルを向けること。今の自分に何ができるのかを見つめること。
「すごいことをしようと思うより、目の前の人をどう大事にできるかとか、半径一メートルのことを大事にする方が、地域では積み重なっていく気がするんです」
大きな理想を掲げることも素敵だけれど、その前に、今ここにいる人や、自分の足元にある想いを見つめること。それが、次の一歩につながっていく。
“取りたくない選択肢”から始まった樗木さんの歩みは、そんなことを静かに教えてくれるようでした。
満天の星もまた、種子島で出逢える”宝”のひとつです
